2026年11月7日
⏱ この記事は約6分で読めます
賃貸でおひとりさまの終活|亡くなったあと部屋はどうなる?家賃・解約・残置物の備え
「アパートを借りて一人で暮らしている。もし自分が倒れたら、この部屋と荷物は誰が片づけるのか」。賃貸住宅に住む方にとって、持ち家の方とは違う不安があります。実は、借りている部屋の契約は、亡くなっても自動的には終わりません。この記事では、何が問題になり、どんな備えが国の制度として用意されているかを説明します。
1. 「亡くなったら契約も終わる」は誤解です
借りている部屋を自由に使える権利(賃借権=ちんしゃくけん)は、相続人に受け継がれます。家賃を支払う義務も一緒に引き継がれます。ですから、誰かが手続きをして解約するまで、家賃は発生し続けます。
相続人がいない場合、あるいは相続人全員が相続放棄をした場合は、家庭裁判所に相続財産清算人(そうぞくざいさんせいさんにん)と呼ばれる人を選んでもらう必要があります。この申立ては自動で行われるのではなく、大家さんなどの「利害関係人」か検察官が請求して選ばれるものです。手続きには月単位の時間がかかるとされています。
部屋の物を大家さんが勝手に処分することは、法律上できません(自力救済の禁止)。つまり、どちらの側も動けず、部屋だけが止まってしまう状態が起こります。だからこそ「生前の備え」が必要になります。
2. 国が用意した「残置物の処理等に関するモデル契約条項」
国土交通省と法務省は、令和3年6月に「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を共同で作りました。賃貸で一人暮らしをする高齢者が、亡くなったあとの解約と荷物の片づけを、あらかじめ決めた人に頼んでおくための契約のひな形です。主に2つの契約からできています。
- 解除関係事務委任契約(かいじょかんけいじむいにんけいやく)…亡くなったあとに、大家さんと話して賃貸借契約を終わらせる権限(代理権)を、頼んだ人に与えておく契約です。この権限がないと、荷物が少なくても家賃は止まりません。
- 残置物関係事務委託契約(ざんちぶつかんけいじむいたくけいやく)…部屋に残った家財を、運び出す・保管する・売る・捨てる、といった作業を頼んでおく契約です。
あわせて、賃貸借契約そのものにも「この契約が終わったら、同じ内容の契約を結び直すよう努める」といった特約を入れておくことが示されています。
亡くなったあとに部屋に残っている家具・家電・衣類・食器などのことです。「遺品」とほぼ同じ意味ですが、契約の世界では「残置物」と呼びます。
3. 大事なルール:すぐには捨てられません
「契約しておけば翌日には部屋を空にできる」わけではありません。後から家族や親族ともめるのを防ぐため、モデル契約条項には次のような手順が組み込まれています。
- 指定残置物(していざんちぶつ)…「これは捨てないでほしい」と自分で指定した物。指定残置物リストに、品物と扱い方(例:〇〇さんに送る)を書いておきます。
- 非指定残置物…それ以外の物。原則として、亡くなってから3か月ほどが過ぎ、かつ賃貸借契約が終わったあとでなければ、捨てたり売ったりできません(食料品など保管できない物は例外)。
- 搬出は早めにできる…3か月を待たずに、荷物を部屋から出して倉庫など別の場所に保管することができます。部屋を空ければ、家賃の負担も止めやすくなります。
- 通知…頼んだ人は、亡くなったことを知ったら、あらかじめ決めておいた「委任者死亡時通知先」へすぐ連絡します。荷物を運び出すときは2週間前までに知らせます。
なお、この契約は期限付きです。モデル条項では、頼んだ人が死亡を知ったときから6か月が過ぎると解除関係事務委任契約が終わる設計になっています。「いつまでも効く」ものではないと覚えておきましょう。
4. 誰に頼むか — 頼んではいけない相手がいます
国は、まず推定相続人のだれかを頼むことを望ましいとしています。それが難しい場合は、居住支援法人や、居住支援を行う社会福祉法人などの第三者を、としています。一方で、避けるべき相手もはっきり示されています。
- 大家さん本人…借りている人の利益が一方的に損なわれるおそれがあり、契約が無効になる可能性があるとされています。
- 家賃債務保証業者…契約の終了が遅いほど保証の負担が増える立場で、利害が対立します。無効と判断されるおそれがあるとされています。
- 管理業者…同じく避けるべきとされています。
また、頼んだ人が先に亡くなると委任は終わってしまいます。「第2順位」の人も決め、その人とも契約しておくことが大切です。
5. 費用の考え方
死後事務委任契約の費用に国の定めた相場はなく、事務所ごとに違います。公表されている例では、司法書士・行政書士で総額50万円〜150万円程度、契約書作成が数万円〜20万円程度、亡くなったあとの事務が30万円〜100万円程度といった幅があります。民間の身元保証会社は、生前に100万円〜200万円の預託金を預けるプランが多いとされています。
国民生活センターには、約190万円で契約したのに「利用のたびに追加請求された」「解約すると返金は半額と言われた」といった相談事例が寄せられています。契約前に、総額・追加費用の有無・解約時の返金を書面で必ず確認してください。困ったときは消費者ホットライン「188(いやや)」、または地域包括支援センターにご相談ください。
6. 今日からできる5つのこと
- 契約書を読み直す…普通借家・定期借家・終身建物賃貸借のどれか、死亡で契約が終わるのはどれかを確認します。
- 指定残置物リストを作る…位牌、家族の写真、遺贈する物、人から預かった物を書き出し、年に1回見直します。
- 通知先と送り先を決める…亡くなったときに連絡する人、荷物を送る先を決めておきます。
- 荷物を減らしておく…生前整理そのものが、搬出の費用と時間を減らします。
- 大家さん・管理会社に伝える…誰に頼んだかを伝えておくと、いざというときに連絡が早く回ります。
この記事は一般的な情報です。契約の形や費用、遺言の要否は、住まいの契約の種類・相続人の有無・財産の状況によって変わります。実際の契約にあたっては、司法書士・行政書士・弁護士などの専門家、またはお住まいの地域包括支援センターにご相談ください。法律や制度は変わることがあります。
まとめ
- 賃貸の契約は死亡では自動的に終わらず、解約するまで家賃が発生し続ける
- 相続人がいなければ、相続財産清算人の選任という手続きが必要
- 国土交通省・法務省のモデル契約条項で「解約の権限」と「荷物の処理」を頼んでおける
- すぐに捨てることはできず、3か月待つ・通知する、といった手順がある
- 大家さん・保証会社は受任者にしない。頼んだ人が先に亡くなる場合にも備える
「自分の部屋のことを、死んだあとに誰が決めるのか」。これを1枚の紙に書き出しておくだけでも、備えは始まります。まずはお住まいの契約書を引き出しから出して、種類を確かめてみてください。